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スターバックスでドリンクを受け取るとき、「いい一日をお過ごしくださいね」と声をかけられた経験はありませんか?たったひと言なのに、心がふっと軽くなり、「次も来たい」と思いますよね。実はこれ、そのスタッフの資質だけではなく、心理学をもとにした「戦略的な体験づくり」が設計されているんです。
というのも、スターバックスが本当に売っているのは、コーヒーではありません。彼らが提供しているのは、「家でも職場でもない、第三の居場所」。味よりも空間を商品としてデザインしてきたブランドです。
この記事では、スターバックスのブランド戦略を心理学・空間設計・戦略的文化の3つの視点からわかりやすくひも解きます。
スターバックスはなぜ支持され続けるのか|ブランド戦略の全体像

スターバックスのコーヒーは決して安くありません。派手な広告を打っているわけでもありません。それでも多くの店舗がいつもにぎわっているのは、「ブランドのつくり方」に明確な軸があるからなんですよね。
どの店舗に入っても同じ雰囲気と安心感があるという、一貫したブランド体験が支持につながっています。スタバは「味より体験」という軸を一貫して打ち出しており、このブランド姿勢こそが人気の土台になっています。
そして、その体験を生む仕組みは、広告ではなく戦略的な出店・文化・空間設計でつくり上げています。ここからは、その全体像を3つの視点から整理していきます。
広告に頼らずブランドを浸透できた理由
スターバックスが広告に頼らずブランドを広げられたのは、「出会う → 安心する → 話したくなる」という認知の流れを、店そのものと体験で設計しているからでしょう。
ポイントは大きく分けると3つ。ただ、実際にはこれらが混ざり合うことで、スタバらしい体験を作っています。
① 出店そのものが「ブランド発信」
立地や店舗デザインを含めた「店そのものの見え方」がブランドの認知に大きく寄与しています。広告ではなく、日常で自然と目に入る接点を大切にしている点が特徴ですね。
② どの店舗でも安心感のある体験
味・空間・接客のトーンまで、どの店舗でもほぼ同じクオリティで再現されるため、「どこでも安心して入れる」という体験がブランド力を底上げします。
③ 「語りたくなる小さな体験」が口コミになる
日常のちょっとした楽しさや気づきが口コミとして広がりやすい点も特徴です。細やかな工夫が自然にブランドへの好意につながっています。
「コーヒーではなく居場所を売る」コンセプト
スターバックスの中核にあるのが、「サードプレイス(第三の居場所)」という考え方です。これは1989年、社会学者レイ・オルデンバーグが『The Great Good Place』で提唱した概念で、家庭や職場とは別に、人々が自然体で過ごし、交流できる居心地の良い空間を指します。
創業者ハワード・シュルツは、イタリアのエスプレッソバー文化に触れ、このサードプレイスの思想をアメリカで再現しようとしました。単にコーヒーを売るのではなく、人が集まり安心して過ごせる場所そのものに価値を置いたのです。
その「居場所性」をつくる要素は、以下の通りです。
- 落ち着いた照明:緊張をやわらげる
- 座席配置や動線:ひとりでも複数人でも快適
- 心地よい音楽:集中とリラックスの中間
- 地域に合わせた店舗デザイン:コミュニティとの調和
このようにスターバックスは、サードプレイスを軸に「居心地の良さ」を一貫して設計することで、長く通いたくなる空間を作り上げています。その結果、よくある競合のコーヒーショップやカフェを超え、ブランドの信頼と顧客ロイヤルティの向上を実現しています。
戦略の中心に「感情価値」がある
スターバックスの強さの中心にあるのが「感情価値」。これは「美味しい」という満足感の中に、「気分が整う」「前向きになれる」といった感情の変化そのものにフォーカスした戦略だと考えています。
スタバで過ごしたことのある人なら、スタッフがカップにメッセージを書いてくれたり、コーヒーを受け取るときに声をかけられた経験があるでしょう。こうした小さな体験がブランドを強化していくんですよね。
サードプレイスというコンセプトの中で醸成された人と人との生のやりとりが、価格や味よりも強い差別化になるからです。ポイントは大きく3つありますが、特に大事だと感じるのはブランドコンセプトに基づいた「感情設計」です。
ブランドコンセプトに基づいた企業文化がある
自宅ではなかなか飲めない、美味しいコーヒーはそれだけでも満足感はあります。スタバが狙っているのはその先の感情です。たとえば、「なんとなく心が軽くなった」「気分が落ち着いた」「仕事がはかどった」「友人といい話ができた」などのちょっとした変化なんですよね。
「いい一日を!」とカップに書かれたメッセージや、コーヒーを受け取るとき「ゆっくりしていってくださいね」といった、ちょっとしたコミュニケーションが、スタバで過ごす時間を、より上質にしてくれます。何が凄いって、これらは、マニュアルで決められていることではないということ。実際に働いている人に聞いたところ、個人の裁量も大きく左右するんだそうです。
つまり、「居心地の良さ」を大切にする接客の考え方そのものが、企業文化として根付いてきたんですね。
②人の記憶に残る装置としてサービスや店舗設計を考えている
行動心理学で知られる「ピーク・エンドの法則」。これは、人は体験を、「最も印象的な瞬間(ピーク)」と「最後の瞬間(エンド)」で記憶するというもの。スタバのサービスや店舗設計は、ピークエンドの法則に当てはめてみると、ぴたりとはまるところがあるんですね。コーヒーを受け渡すときのひと言がまさにそうです。
それと、特に観光地に行くと分かりますが、スタバって、ロケーションが印象的なところに出店していますよね。しかも、建物の造形も凝っていて、しゃれている。僕自身、全国各地のスタバに行きましたが、記憶にあるのは、何を飲んだかよりも、そのロケーションや、スタッフのひと言です。
こうした記憶に残る装置として、サービスや店舗設計がなされている、と感じるのは僕だけではないはずです。
③ 感情価値は「競合他社にコピーされにくい」
「価格・利便性・商品」というのは、競合に真似されたり、質的には負けてしまう可能性もあります。でも、人が感じる「居心地の良さ・気分の良さ」といった感情設計は模倣が難しい。これをブランドコンセプトとして、設計していることに、スターバックスの強さがあります。
スタバは、商品軸ではなく感情軸で競争しているブランド。これこそが、「支持され続ける仕組み」の中心にある考え方なんですよね。
スターバックスの体験価値をつくる3つの要素

スターバックスが長く支持され続ける背景には、感情・空間・記憶の3軸が連動した体験設計があります。それぞれの要素が互いに補完し合い、「また行きたい」と感じる価値を生み出しています。
ここからは、スターバックスが体験価値をつくるために実際に用いている具体的な要素を、感情・空間・記憶という3つの観点から紹介します。前半で触れたブランドの背景を、どのような仕組みで体験として形にしているのかを見ていきましょう。
【感情価値】小さな気分の変化をつくる
スタバでは、カップに添えられた一言や、受け渡し時のさりげない声かけなど、小さなコミュニケーションで前向きな気分をつくる仕組みを整えています。こうした瞬間的な心地よさが積み重なり、体験価値として記憶に残ります。
このアプローチは、先ほど紹介したように、ピーク・エンドの法則とも相性がよく、体験の締めくくり方まで意識した設計になっています。小さな接客体験が積み重なり、心が整う場所として記憶されやすくなるんですね。
【空間価値】気分から逆算するサードプレイス設計
スタバの空間づくりは、五感の演出そのものを目的にするのではなく、「どんな気分で過ごしてほしいか」を実現するための手段として五感を使っています。
空間づくりでは、照明の明るさ・座席の配置・動線の取り方・背景素材の選定など、目に見えない要素まで細かく整えています。特に、ひとり客・複数客どちらも過ごしやすい椅子配置や、地域性を反映した内装は、店舗ごとの重要なポイント。
これらはすべて、五感を通じて居心地の良さを感じてもらうための工夫でしょう。空間そのものが、自然と気分を整えてくれるつくりになっています。
【記憶価値】思い出される瞬間を仕込む設計
スタバでは、「何を飲んだか」より、「どこで・どんな気分で過ごしたか」が記憶に残りやすい設計になっていると考えています。
印象に残るロケーションや、店に入った瞬間の安心感、帰り際の短いコミュニケーションなど、「記憶に残る瞬間」を意図的に設計しています。特に、景観の良い立地や特徴的な店舗デザインは、訪れた場所ならではの体験を思い出せる要素となっていますね。奈良の猿沢池前のロケーション、伊勢神宮の通り沿いにある古風でモダンな外観、京都二条城にあるデザイン性に優れた建築。
訪れたことのある方なら共感してもらえるのではないでしょうか。こうした記憶が旅の印象的な思い出として残っています。
顧客体験を支える「文化」と「判断基準」

スターバックスでは、スタッフの個性は違うのに、接客の雰囲気はどの店でも大きくぶれません。国内2000店舗以上あり、そのすべてを訪れたわけではないので断言できませんが、そのサービス品質はすごいなあ、と思います。その理由はおそらく、細かなマニュアルではなく、顧客にどう接するべきかを判断する基準が全員に共有されているからでしょう。
以下は、実際にスタバの体験を支えている具体的な仕組みです。
手書きメッセージに示される判断基準
スタバの多くの店で見られる「カップの手書きメッセージ」「その場の状況に合わせたひと言」は、全店舗で統一したマニュアルではありません。多くの店舗では、カップのメッセージはスタッフの裁量で行われており、義務化されたルールではないんですね。
実際の判断基準は非常にシンプルで「この瞬間、お客様にとってプラスになる行動かどうか」だけです。
スタッフは以下を自分で選んでいます。
- 声をかけるか、静かに渡すか
- どんなひと言が適切か
- メッセージを書くか書かないか
行動は統一していないが、判断基準は共通の方向性で共有されている。ここが接客のバラつきが出にくい理由です。
マニュアルではなく判断基準を共有している
スターバックスは「Our Mission & Values」を共有し、スタッフが判断しやすい基準を文化として根付かせています。店舗で共有されているのは、細かい手順ではなく次のような基準。
- お客様が緊張しない距離感で接する
- 急いでいなければ一呼吸置いて渡す
- 最後のひと言は、作業でなく「お客様を見る」ことを優先する
これらはスローガンではなく、現場の判断に直結する具体的な行動基準です。この基準が揃っているから、店舗が違っても「なんとなく落ち着く」「最後のひと言が自然」という印象が再現されるんですね。
「どうありたいか」を短く言葉にし、判断の基準にする
この仕組みは、小さな組織でもそのまま応用できます。必要なのは価値観ではなく、判断基準として使える短いメッセージ。たとえば、スターバックスの本家アメリカでは「Warm Welcome」と「Warm Goodbye」という概念が共有されています。本社の資料では、「すべての接客をポジティブに締めくくりなさい。温かい別れの言葉は、コーヒーより強い印象を残すことがある。」と記されていることがわかっています。
僕は20代のころ、イタリア料理店の店長をしていましたが、マネジメントには苦労しました。どうしても、対応する人による品質の差が出てしまいます。それも、マニュアルで細かく決めるほど、お客さまは差を感じやすくなる。
今から思えば、スターバックスのように、以下のよう判断基準を作れば、もっと動きやすかっただろうな、と思います。
- 最後の5秒はお客様の目を見て笑いかける
- メッセージカードを用意しておいて、お帰りの際、一言書いて渡す
スターバックスのようにマニュアルではなく、ポイントを絞って、判断基準を共有すれば、接客の迷いが減り、質が揃いやすくなります。冊子やマニュアルはむしろ不要で、短いメッセージなりルールを文化として共有すれば、機能しやすくなる、ということですね。
中小企業が実践できるスタバ式・体験価値の作り方

スターバックスの体験価値は、大規模投資や華やかな宣伝ではなく、小さな判断の積み重ねで心地よい時間をつくるという思想から生まれています。仕組みの多くが行動ルール・空間の整え方・声かけといった費用のかからない要素で構成されているため、中小企業でも十分に応用可能。
一方で、中小企業の場合、体験価値の設計を自社だけで進めようとすると、課題の優先順位づけや具体策の落とし込みで迷いやすい側面もあります。外部の視点が入ることで、本質的な改善ポイントが見えやすくなるケースも少なくありません。
ここでは、スタバの本質を「接客・空間・文化・発信」の4つの視点に整理し、明日から取り入れられる実践方法としてまとめてみました。
【接客】最後の5秒をデザインする
スタバを象徴する「最後のひと言」は、体験の締めくくりを整える工夫です。これは大企業でなくても再現できるはずです。
ポイントは 決まり文句ではなく、相手に合わせたひと言にすること。たとえば、「今日は寒いので、あたたかく過ごしてくださいね」「良い一日になりますように」といったひと言が、サービス全体のイメージを好転させます。
オンライン対応も同様です。メールの締めやZoomの終わり際にひと言添えるだけで、「丁寧に対応してくれた」という印象が強く残ります。体験価値は、業種に関係なく最後の数秒で構築できるんですね。
【空間】気分から空間を逆算する
スタバの空間は「五感を整える」のではなく、顧客に感じてほしい気分を再現するための手段として設計されています。この逆算思考を応用すれば、大掛かりな内装がなくても体験価値を高められるのでおすすめ。
まずは「来店客にどんな気分で過ごしてほしいか」を決めること。たとえば、落ち着く・集中できる・安心できる・前向きになれるといった気分のゴールが明確になると、以下のような設計方針が自然と浮かび上がってきます。
- 照明の明るさや色
- 視界のノイズの取り除き方
- 動線の確保
- 背景やテーブルの配色
オンライン事業者の場合は、背景の色味・ライトの向き・画角の余白が同じ役割を果たします。大掛かりな装飾よりも、気分を定義することが空間づくりの本質です。
【組織】行動と文化を結びつける
スタバの強さは、マニュアルではなく文化が判断基準になっている点です。これは小規模組織でも再現できます。重要なのは、価値観を行動の型に落とし込むこと。
- 「最後の数秒を丁寧に」
- 「困っている人に気付いたら必ず声をかける」
- 「作業が詰まっている人を見かけたら手を止める」
このような短い行動指針は、スタッフの迷いをなくし、マニュアルでは生まれない一貫性につながります。成果につながった行動をスタッフ同士で共有すると、「これがうちの良さだよね」という共通認識が育ち、自然と文化が強くなります。
文化づくりは難しい作業ではなく、小さな成功を言葉にして共有するところから始まります。
【発信】SNS時代は「瞬間」が価値になる
いま、SNSで拡散されるのは「特別なイベント」ではなく、日常のほんの一瞬の心地よい体験です。スタバが自然と口コミされるのは、「手書きメッセージ」「ひと言の温度感」「店内の雰囲気」といった「小さな気持ち良さ」が切り取られやすいからです。
中小企業でも、少しの工夫で同じ構造がつくれます。
- 丁寧な接客のワンシーン
- 心づかいが見えるような小さな工夫
- 店内やデスク周りの落ち着く一角
こうした瞬間的な魅力は、写真・動画・投稿文に自然と溶け込み、外部の認知をじわじわと広げてくれます。高価な広告より、自社独自の小さな瞬間を発信したほうが、より効果的な訴求となります。
まとめ|スタバに学び「顧客に選ばれる理由」を作ろう!

スターバックスが選ばれるのは、商品ではなく「また来たくなる体験」を丁寧に設計しているから。最後のひと言や気分から逆算した空間、スタッフの判断をそろえる文化が、その体験を支えています。
スタバのような体験設計は、大掛かりな投資がなくても導入できます。ただし、どこに課題があり、どこから改善すべきかは業態・顧客・スタッフ体制によって大きく異なります。結局は、誰に、何を、どうする、という戦略の軸が重要になってくるんですよね。
スターバックスはやはり、コーヒーを売るお店ではなく「家でも職場でもない第三の居場所」と定義したからこそ、現場レベルのサービスで体験価値を高める品質の接客を全国の店舗で実現できたし、店舗設計にも反映されました。
事業をどう定義するか、あなたのブランディング設計づくりのヒントになれば幸いです。


