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値引きは、思いやりではありません。
最近は、原材料や電気代が上がって、いろいろなお店や会社から値上げのお知らせが届くようになりましたね。
それでも、自分の仕事の値段となると、なかなか上げられない。「上げたら、お客さんが離れていくんじゃないか」「うちのような小さいところが、強気に出ていいのか」。見積もりを出すたびに、少しだけ値段を下げてしまう方も多いと思います。
僕も、どちらかというと謙遜するように教わってきました。「道は譲ってあげなさい」と。
我が強かったので、取りに行くときは取りに行かなければ、と思っていました。それでも、どこかでその教えが残っていたのでしょう。最後は、引いていました。
でも、400件以上のホームページの制作・支援に関わってきて、いまははっきり言えます。謙遜することと、自分の仕事を安く売ることは、別の話です。
頭を下げて買ってもらうのではなく、自分の仕事に誇りを持って、お客さんと対等に立つ。そのうえで、自分を高く置くことと、お客さんを思いやることは、ちゃんと両立します。
この記事では、自分を安売りしないための3つの考え方を、単価を3倍にして依頼が増えた講座受講生の成田さんの話と一緒にまとめます。最後に、自分の値段を守るための5つの点検も置いておきます。
「道を譲りなさい」は、同じ道を行かないという意味だったのかもしれない
混み合った道では、最後は値段で比べられる
いま振り返ると、「道は譲ってあげなさい」という教えの本当の意味は、遠慮や謙遜ではなかったのかもしれない、と思っています。
人と同じ道を行かない。自分だけが進める道を探しなさい。そういう意味だったのではないか、と。
渋滞している国道を思い浮かべてみてください。前の車にぴったりついても、何度車線を変えても、着く時間はほとんど変わりません。疲れて、ガソリンが減っていくだけです。
商売も同じです。同じようなお店や会社がひしめき合う市場では、経験も、スキルも、体力も、時間も、すり減っていきます。
そして、お客さんから見て違いが分からないと、最後に比べられるのは値段です。安売りが始まるのは、たいてい、こういう場所です。
誰も行かない道は、探して、切り開く
市場は、競争が少ないほどいい。
前を行く人に道がふさがれているなら、別の道を探せばいい。見つからなければ、自分で切り開けばいい。その道には、ライバルがいません。
以前、ココナラで長く稼ぐための手順をまとめたときも、最初のステップに「稼げるマーケットを知る」を置きました。ライバルが多すぎて違いを出しにくい分野は、はじめから選ばないほうがいい、とも書いています。
ただし、誰もいない場所には、お客さんもいないことがあります。競争の少ない場所の見つけ方は、別の記事で詳しく書きました。


この記事で伝えたいのは、その先のことです。ほかと違う道を選んでいるのに、自分から値段を下げてしまう人がいます。せっかく選んだ道で、自分の値打ちを自分で下げてしまうのは、もったいないと思うんです。
自分を「賞品」として扱う|オーレン・クラフさんのプライズフレーム


プライズは「商品」ではなく「賞品」
オーレン・クラフさんの『シリコンバレーの交渉術』(ダイレクト出版・2012年)に、「プライズフレーム」という考え方が出てきます。
プライズは、英語で「賞品」のこと。フレームは、ものの見え方を決める枠のことです。
僕なりにかみくだくと、こうなります。
売り込んでいるのは、商品ではなく、賞品としての自分。自分というセールスマンは、世界に1人しかいない。この商品を、この形で届けられるのは自分だけ。
セールスは、ものを売ることではありません。自分という賞品も含めて、買ってもらうことです。
安売りとお願いが、自分の値打ちを下げる
だから、安売りをしてはいけない。お客さんに、お願いをしてもいけない。
そのとたん、自分の値打ちが一気に下がるからです。
フリマアプリで、出品してから何度も値下げされている品を見ると、「何か訳があるのかな」と少し身構えますよね。中身は同じでも、値下げが続くほど、ほしい気持ちは冷めていきます。
仕事の値段も同じです。聞かれてもいないのに「もう少しお安くできます」と言うと、お客さんは喜ぶより先に、「最初の値段は何だったんだろう」と考えます。
反対に、自分の仕事にリスペクトを持てば、お客さんと対等に立てます。
対等というのは、えらそうにすることではありません。頼む側と頼まれる側が、お互いに「この相手でいいか」を選んでいる状態のことです。
「欲しくないなら、それで構いません」で、成績が上がった
これは、僕が会社員のころに体で覚えたことでもあります。
水産会社に勤めていた頃、飲食店やホテルに電話1本で魚を売る仕事をしていました。忙しい時間に電話をかけてしまい、怒鳴られて切られる日も少なくありませんでした。売上が上がらない、苦しい時期もありました。
そこで変えたのが、売り込まないことでした。欲しいかどうかだけを聞いて、欲しくないなら、それで構わない。相手が電話を切る前に、こちらから切る。
この「断る営業」で、年間トップの成績を出した年があります。
頭を下げて買ってもらうのをやめて、相手に選んでもらう側に回った。それで、同じ電話の結果が変わりました。
単価を3倍にして、依頼が増えた成田さんの話
値上げが怖かったのは、値段の理由を言えなかったから
ここで、僕の「勝てるホームページ作成講座」を受けてくれた成田さんの話をします。
成田さんは、ココナラでホームページ制作を出品しているフリーランスの方です。講座を受ける前から、制作の仕事は取れていました。
それでも、悩みがありました。単価を上げたい。でも、上げたらお客さんが離れていくんじゃないか。
お客さんに「ありがとう」と言われても、内心では「もっといい提案ができたんじゃないか」と、自信が持てずにいたそうです。
デザインや構築の腕はある。足りなかったのは、「なぜこの値段なのか」を自分で言えるだけの根拠でした。
ヒアリングの量を10とすると、以前は2だった
講座でいちばん印象に残ったのは、ヒアリング(最初の聞き取り)の大切さだったそうです。最初に講座を見たときは「え、ここまで聞くの?」と驚いた、と話してくれました。
講座で教えているヒアリングの量を10とすると、それまでは、たぶん2くらい。
講座のあと、成田さんはヒアリングの項目と流れを見直しました。お客さんから出てきた話を、そのまま文章の素材にするのではなく、引き出して、整理して、ホームページに落とし込む。
トップページの並びも、「なんとなくかっこよく見える」ではなく、「この順番には意味がある」と根拠を持って提案できるようになりました。
単価は3倍。依頼数は、減るどころか増えた
そのうえで、成田さんはホームページ制作の単価を3倍に設定しました。
対談でこの話を聞いたとき、僕は思わず「3倍も上げられたんですか?」と聞き返しました。すごいですよね。
最初はやっぱり問い合わせが来ないんじゃないかとちょっと怖かったんですけど、「この内容なら絶対に価値を感じてもらえるな」という自信はどこかにあったので思い切って上げて。結果としても依頼数が減るどころかむしろ増えて。
何が言いたいかというと、成田さんが値段を上げる前に手に入れていたのは、値段の理由だったということです。「この内容なら」という一言に、それが出ています。
お客さんの層も変わったそうです。「頼んでよかった」と言われることも増えました。
ただ単に安さで選ばれるんじゃなくて、ちょっと信頼もされつつ選ばれているのかなという感覚がありました。
値段だけを3倍にして、ヒアリングも提案も前のままだったら、こうはならなかったと思います。
もちろん、値段を上げれば誰でも依頼が増える、という話ではありません。
値段を上げると、問い合わせてくる人の数そのものは減ることもあります。そのかわり、選ばれる確率は上がる。
成田さんのように、結果として依頼が増える人もいる。僕はそう考えています。
ココナラでホームページ制作を出品しているフリーランス、成田さんとの対談は、動画でも見られます。
謙遜と思いやりは、値引きのことではない
謙遜は、矢印を自分に向けること
ここまで読んで、「自分を高く置くなんて、謙遜を忘れた態度では」と感じた方もいるかもしれません。
僕は、謙遜を捨てようとは思っていません。ただ、謙遜の向け先を間違えないほうがいい。
謙遜は、お客さんに値引きを差し出すことではありません。「まだ足りない」と、自分の仕事を磨き直すことです。
ほかの安い会社に決まったとき、僕は「価格で選ばれているうちは、自分のサービスの魅力が足りなかっただけだ」と考えます。そして、磨き直します。
値段を下げて追いかけるのではなく、次に比べられたときに、値段以外の理由で選ばれるようにする。謙遜は、そのためにあると思っています。
値引きで削られるのは、お客さんの成果
外壁の塗り替えで、相場よりずっと安い見積もりが出てきたら、塗る回数や、塗る前の下準備が削られていないか、気になりますよね。
ホームページ制作も同じです。安くするということは、時間をかけられないということ。削られるのは、たいてい、成果を左右する部分です。
お客さんへのヒアリング、事業の理解、ライバルの調査、見せ方の組み立て。どれも、できあがったページには写りにくい仕事です。
そこを削ったホームページから、成果が出るとは思えません。だから、値引きは、お客さんへの思いやりにはならないのです。
価格だけで選ぶ会社には、ほかを勧める
もう1つ、僕が決めていることがあります。
金額だけを比べて、安いほうに決める。そういう選び方をされる会社さんからのご依頼は、お受けしていません。
冷たく聞こえるかもしれません。でも、価格で選ぶなら、もっと安いところがあります。そのほうが、その会社にとってもいいはずです。
外注先として下に見られる関係も、お付き合いが難しいと考えています。僕は戦略から提案するので、それが聞き入れられず、言われたとおりに作るだけになると、成果が出るとは思えないからです。
僕が仕事で大事にしているのは、縁と恩と感謝です。一度ご縁をいただいた会社には、売上や利益まで、とことん向き合う。だからこそ、最初に見極めます。
合う相手には全力で。合わない相手には、もっと合う選択肢を。お断りも、思いやりの1つの形だと思っています。
自分を高く置くことと、相手への思いやりは両立する
食の仕事をしていた頃、ずっと引っかかっていたこと
僕は、レストランでソムリエや店長をしていたこともありますし、水産会社で魚を売っていたこともあります。
食は、生きていくためになくてはならないものでありながら、エンターテインメントであり、経済であり、アートでもあります。
そんな食の仕事をしていると、避けて通れない悩みがあります。食品ロスです。
農林水産省の推計では、日本の食品ロスは年間461万トン(令和6年度)。そのうち70万トンは、外食産業から出ています。
世界に目を向けると、国連食糧農業機関(FAO)などがまとめた2026年版の報告書で、2025年に飢えに直面した人は約6億4,500万人と推計されています。
レストランで出す料理は、生きるためだけのものではありません。楽しむため、感動するため、人生を豊かにするための一皿です。
これだけ多くの人が飢えに苦しんでいる中で、楽しむための食を出す。自分のしていることは正しいのか、と考えてしまうことがありました。
借金で首が回らなくても、分け与える余裕は持っていたかった
そのとき考えたのは、せめてもの償いとして、寄付をすることでした。
自分がどんなに苦しくても、人のために差し出す。そんな思いやりなしに、成功なんてできるだろうか。
神様は、チャンスをくれるだろうか。そう思っていたからです。
たとえ借金で首が回らなくても、人に分け与える心の余裕だけは持っていたい。そう考えていました。
心の余裕は、お財布の余裕とつながっている


2017年の年明け、500万円の借金を抱えていた僕は、手帳に「やりたくないこと」を書き出しました。
その中に、お金がないのは最悪で、心の余裕を持てないのもお金と関係している、と書いた行があります。
分け与えたいのに、余裕がない。いま振り返ると、この2つは同じ話の表と裏でした。
安売りを続けると、真っ先になくなるのは、相手を思いやる余裕です。値引きした分を取り戻そうと件数を増やし、1件にかけられる時間が減り、目の前のお客さんにていねいに向き合えなくなる。
反対に、ちゃんと利益が残る値段をつけると、その分をお客さんに返せます。
ヒアリングに時間をかける。納品したあとの相談にのる。サービスそのものを良くしていく。
自分を高く置くことと、相手への思いやりは、ぶつかりません。自分の仕事に正しい値段をつけることが、思いやるための余裕を作ります。
自分の値段を守るための5つの点検
ここからは、最近出した見積書や提案のメール、ホームページの料金のページを横に開いて読んでみてください。
- 値引きを、聞かれる前に自分から言っていないか
- 提案の最後が「お願い」で終わっていないか
- 値段の理由を、3つ言えるか
- 値段のすぐそばに、実績やお客さんの声があるか
- 値上げで増えた分の使い道を決めているか
1. 値引きを、聞かれる前に自分から言っていないか
見積書を出すとき、「ご予算に合わせて調整できます」と最初から書いていないでしょうか。
予算が合わないお客さんには、値段を下げるのではなく、やることの範囲を絞った案を出す。値段を下げるのは、中身を減らすときだけ。そう決めておくと、自分の値打ちを守れます。
2. 提案の最後が「お願い」で終わっていないか
「何卒よろしくお願いいたします」で締めるのは、日本の仕事の礼儀です。気をつけたいのは、その手前です。
お願いで終わる提案:少しでもお役に立てればと思いますので、ぜひご検討をお願いいたします。ご予算に合わせて調整いたします。
選んでもらう提案:この内容で進めると、ホームページを見た方が、料金と流れを確かめてから問い合わせできるようになります。ご予算と合わない場合は、範囲を絞った案もお出しします。どちらが合うか、選んでください。
2つ目は、頭を下げていません。でも、失礼でもありません。決めるのはお客さん、ということをはっきりさせているだけです。
水産会社の電話で覚えた「欲しくないなら、それで構いません」を、ていねいな言葉にしたのが、2つ目の書き方です。
3. 値段の理由を、3つ言えるか
「なぜこの値段なんですか」と聞かれたら、すぐに3つ答えられるか。紙に書き出してみると、すぐに分かります。
成田さんの話から読み取れるのは、深く聞き取るヒアリング、根拠を持って並べたページの構成、文章まで踏み込んだ提案、の3つです。
商品やサービスは、それが良いから売れるのではなく、良さそうに見えるから売れる。僕はずっとそう考えています。理由が自分の頭の中にしか無いなら、お客さんからは見えません。
4. 値段のすぐそばに、実績やお客さんの声があるか
料金のページに、値段だけがぽつんと並んでいないでしょうか。
値段の横に、その値段で何が変わったのかが書いてあると、お客さんは値段を「高い」ではなく「この内容なら」と受け取りやすくなります。
僕自身、2017年にココナラでホームページ制作を5,000円で出品したところから始めました。実績と口コミが増えるたびに値段を上げてきましたが、上げても依頼は増えていきました。
安く始めることと、安売りは違います。僕の5,000円は、実績を作るための投資だと決めた値段でした。断られるのが怖くて下げる値段とは、意味がまったく違います。
上げ幅は人それぞれです。成田さんのように中身を作り直して一度に上げる人もいれば、僕のように少しずつ上げる人もいます。共通しているのは、値段の理由になるものを先にそろえていたことです。
5. 値上げで増えた分の使い道を決めているか
値上げで増えた分を、何に使うか。
ヒアリングの時間を増やす。納品後の相談を手厚くする。自分が学び直す。
使い道まで決めておくと、値上げは「取るため」ではなく「返すため」のものになります。お客さんにも、そう説明できます。
値上げが怖いときの考え方は、ポッドキャストの第35回「値上げに抵抗がある人のための値上げスパイラルを作る仕組み」でも話しています。
まとめ|自分の仕事を安売りしない人が、お客さんと対等に立てる
- 「道を譲りなさい」は、同じ道を行かないこと。競争の激しい場所では、最後は値段で比べられる
- 自分を賞品として扱う。安売りとお願いは、自分の値打ちを下げる
- 謙遜は自分の仕事を磨き直すこと。思いやりは値引きではなく、お客さんの成果に向き合う余裕を持つこと
講座受講生の成田さんは、ヒアリングと提案の中身を作り直したうえで、ホームページ制作の単価を3倍に設定しました。依頼数は減るどころか増え、安さではなく信頼で選ばれている感覚がある、と話しています。
今日やることは1つです。最近出した見積書か提案のメールを1通開いて、値引きの言葉と「お願い」の言葉に線を引いてみてください。
それを消したあとに、何を書けば選んでもらえるか。そこに入る言葉が、あなたの値段の理由です。
自分の値段を守るのは、値段を下げるより手間がかかります。ヒアリングを深くして、提案の根拠をそろえて、合わないお客さんにはお断りもする。楽な道ではありません。
それでも、自分の仕事にリスペクトを持てる人は、お客さんにも、ちゃんと優しくなれます。安売りをやめた先に、思いやるための余裕が待っていると僕は思っています。
ひとりで制作やデザインの仕事を受けていて、「単価がなかなか上がらない」と感じている方へ。値段を上げる前に、自分のどの力がまだ足りていないかを知っておくと、何から手をつければいいかが決まります。
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出典
- 勝てるホームページ作成講座 受講生 成田さんとの対談(https://youtu.be/csExEr7fZNQ)
- オーレン・クラフさん『シリコンバレーの交渉術』ダイレクト出版、2012年
- 農林水産省「食品ロスとは」令和6年度推計値(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html)
- FAOほか「The State of Food Security and Nutrition in the World 2026」(https://doi.org/10.4060/cd8306en)
