「AIは9割大手を選ぶ」は本当か。小さな店が勝負できる質問

「AIは9割大手を選ぶ」は本当か。小さな店が勝負できる質問

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条件をつけずに聞くと、AIは大手を選ぶ。

最近、店選びや買い物の前に、ChatGPTやGoogleのAIに相談する人が増えてきましたね。

そのAIは、大手チェーンと地元の小さな店のどちらを勧めているのか。北米で、買い物の質問2万件を使ってそれを調べた結果が、2026年9月29日に発表されました。

見出しは「AIは10回のうち9回、地元の店より大手を選ぶ」。ただ、本文を読むと、この9割には条件がついています。しかも、質問に1語足しただけで、結果が大きく動いていました。

この記事では、調査で分かったことと、読み違えやすい点を整理します。そのうえで、スモールビジネスがどこで勝負すればいいのか、自社サイトで何を確かめればいいのかを書きます。

先に僕の結論を書いておきます。条件のない質問では、小さな店は知名度で負けます。勝負する場所は、お客さんが「どんな店か」を指定して聞いてくる質問のほうです。

目次

Lightspeedの調査で分かったこと(2026年9月29日発表)

2万件の買い物の質問を、3つのAIに投げた

発表したのは、北米のLightspeed Commerceです。お店のレジや在庫管理のシステムを提供している会社で、調査そのものはVaer AIという会社(創業者はトム・ウェルズさん)が担当しました。

やったことはシンプルです。ChatGPT、GoogleのAIモード(Google検索の中で、AIと会話しながら調べられる機能)、AIによる概要(AIオーバービュー=検索結果の上に出る、AIがまとめた答え)の3つに、買い物の質問を2万件投げました。

質問は10の商品分野にまたがり、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨーク、モントリオールの4都市での買い物を想定しています。集まった回答は約46万件。実施は2026年6月から8月です。

AIには2通りの条件で答えさせています。AIがもともと持っている知識だけで答える場合と、その場でウェブ検索をしてから答える場合です。

押さえておきたい数字は4つ

  • AIが手持ちの知識だけで答えたとき、大手チェーンと小さな店を1対1で比べると、90〜94%で大手を選んだ
  • ウェブ検索を使わせても、回答の46〜58%は大手だった
  • AIによる概要は、買い物の回答の68%で地元の店を1つも挙げなかった。ChatGPTとAIモードは、回答の約70%で地元の店を出した
  • 広い質問では、地元の店がいちばん上に来るのが約3分の1。具体的な商品で探す質問では、少ないときで10件に1件まで下がった

3つのAIの中でいちばん大手寄りだったのが、AIによる概要です。日本でも、Googleで検索すると結果の上に表示される、あの要約です。

「独立系」の1語で、大手の割合は約44%から最小9%へ

この調査でいちばん目を引いたのは、ここでした。

Adding a single word—’independent’—cut the share of AI recommendations going to large national chains from about 44% to as little as 9%

(「independent(独立系)」という1語を足すだけで、AIの推薦のうち大手チェーンに行く割合は約44%から、少ないときで9%まで下がった)

何が言いたいかというと、AIが大手を選ぶかどうかは、質問の言葉でかなり動くということです。同じAIでも、「どんな店か」を指定されると、答えが大きく変わります。

この調査を読むときの3つの注意

数字が強いので、そのまま広めたくなります。ただ、読み違えると逆の行動につながるので、先に書いておきます。

「AIに聞くと9割が大手」ではない

9割は、手持ちの知識だけで答えたときの1対1の比較の数字です。

ウェブ検索を使わせた場合は、大手が回答の46〜58%を占めた、という書き方になっています。2つが同じ物差しの数字かどうかは発表文から読み取れませんが、9割がどんな条件でも出る数字ではないことは確かです。

それでも半分前後は大手なので、大手が強いことは変わりません。

北米の小売の調査で、日本の店に当てはまるかは分からない

対象は、北米4都市での買い物の質問です。日本で同じ割合になるかは確かめられていません。鍼灸院や美容室のようなサービス業になると、なおさら分かりません。

ですから、この記事の数字は「日本でもこうなっている」という話ではありません。「AIは質問の言葉でこれだけ動く」という傾向をつかむ材料として読んでください。

発表したのは、個人店向けのレジを売る会社

Lightspeedは、個人店向けのレジシステムを売っている会社です。「AIは大手を選びがち」という結果は、この会社にとって話題にしやすい結果でもあります。

報告書の全文は公開されておらず、僕が読めたのは発表文だけです。数字を疑えと言いたいのではありません。利害のある会社の発表だということは、頭の片すみに置いておいたほうがいい、という話です。

条件のない質問では、小さな店は知名度で負ける

質問の言葉でAIの答えが変わる図解。条件なしや商品名で聞くと大手が有利、どんな店かを指定して聞くと小さな店に出番が回る

AIが何を基準に大手を選んでいるのか、発表文には書かれていません。ただ、手持ちの知識だけで答えたときに大手が9割を超えるのは、ネット上で名前を目にする回数の差、つまり知名度の差だと考えるのが自然です。ここは僕の解釈です。

タクシーの運転手さんに、昼ごはんの店を聞くと

たとえるなら、知らない町のタクシーです。

運転手さんに「このへんでお昼を食べるなら、どこがいいですか」と聞いたとします。返ってくるのは、たいてい誰でも知っている店の名前です。

外れがないし、説明もいらない。聞いた側も「ああ、あそこね」とうなずいて、話はそこで終わります。

ところが「子どもを連れて座敷に上がれて、魚のおいしい店はありますか」と聞くと、運転手さんは少し考えてから、地元の小さな店の名前を出してくれる。

条件がなければ、思い浮かぶのは知名度の高い名前です。条件がついたとき、はじめて小さな店に出番が回ってくる。「independent」の1語で結果が動いたのは、これとよく似た動き方です。

商品名で細かく聞くほど、大手が有利になる

ただし、条件なら何でもいいわけではありません。

調査では、広い質問だと地元の店がいちばん上に来るのが約3分の1だったのに、具体的な商品で探す質問では、少ないときで10件に1件まで下がっています。

運転手さんに「〇〇という銘柄のビールが飲める店」と聞けば、品ぞろえの多い大きな店がまず浮かぶのと同じです。商品名で細かく絞るほど、在庫も商品ページもたくさん持っている大手が有利になる。これも僕の推測ですが、そう考えると筋が通ります。

小さな店に効くのは、商品名ではなく「どんな店か」を指定する言葉のほうです。「独立系の」「地元の」「女性専門の」「子ども連れで入れる」。店の性格や、誰のための店かを表す言葉です。

もっとも、調査で確かめられたのは「independent」の1語だけです。「女性専門の」のような言葉で同じことが起きるかは、この調査からは分かりません。

小さな店が勝負するのは「どんな店か」を指定された質問

大手と同じ質問で比べられない場所に立つ

ランチェスター戦略という考え方があります。もとは戦いの勝ち負けを兵力の数で説明した法則で、日本では中小企業の戦い方として広く知られています。

小さい側は、戦う場所を絞って、そこに力を集めろ。ひとことで言えば、それだけです。

AI検索に置き換えると、何の条件もない質問は、大手が勝つ場所です。知名度でも、ネット上に出ている情報の量でも、小さな店はかないません。小さな店が立つべきなのは、大手と同じ質問で比べられない場所です。

僕がホームページの設計でいちばん時間をかけるのは、デザインでも文章の量でもなく、「この店は誰のためにあるのか」を決めるところです。ここが決まると、トップページの1行目も、メニューの並べ方も、載せる写真も決まっていきます。

ここから先は推測です。調査は、質問の側に1語足した結果を見ただけで、店のサイトに何が書いてあったかまでは調べていません。

それでも、「女性専門の」と聞かれたときに名前を挙げてもらうには、その店が女性専門だということが、自社サイトやGoogleビジネスプロフィール、クチコミのどこかに書かれている必要がある。僕はそう考えています。

東大阪の女性専門鍼灸院「はりとお灸ひなた」さん

僕がホームページのリニューアルをお手伝いした、東大阪の女性専門鍼灸院「はりとお灸ひなた」さん(西畑さん)は、この考え方がいちばん分かりやすい例です。

西畑さんは、自分の店を「女性専門の鍼灸院」と紹介します。主なお客さんは30代から50代の女性。使うのは、刺さないはりとお灸です。

誰のための店か。どこの店か。何が専門か。

ひなたさんは、この3つを短い言葉で言い切れる店です。

西畑さんは、鍼灸はそもそも大量集客が必要な仕事ではない、と考えていました。一番の希望は、見に来てくれた人に正しく想いが伝わるサイトにすること。

だからヒアリングでは、なぜ今の仕事をしているのかという想いまで掘り下げました。他の院と競争するより、住み分けて、その分野でいちばんになる。それが僕の立てた戦略です。

西畑さんは、ヒアリングを通して、ホームページを作るにはここまでやる必要があるんだと感じたそうです。どうやら僕のヒアリングは、かなりしつこいらしい。

リニューアル後、常連さんからは「わかりやすくなった」と言われたそうです。一人で営んでいるので、問い合わせが爆発的に増えたわけではありません。

それでも、必要な人が、必要な情報にきちんとたどり着けるようになった。新しく来た人の定着も、はっきり二つに分かれるようになったといいます。

誰のための店かがはっきりしたぶん、合う人と合わない人の線がくっきりしたわけです。

念のため書いておくと、ひなたさんがAIに推薦されたという話ではありません。ここで伝えたいのは、「女性専門の鍼灸院」という、条件つきの質問にそのまま重なる言葉を、ひなたさんが店の説明として持っていることです。

武蔵小金井の美容室HAMONさん

もう1つは、東京・武蔵小金井の美容室HAMONさん(オーナーの中村さん)です。カットもパーマもしますが、いちばんの得意は、ブリーチを使った、その人だけのデザインカラー。席は3つです。

対談で大手のお店の話になったとき、中村さんはこう話していました。

原宿とか渋谷とかにブリーチがうまい美容室とかいっぱいあって、そっちの方が多分ブリーチは上手だと思うんですけど、ある程度プロセス化されてるんで、マニュアル化というか。

(中略)

ただやっぱ微細なデザインとか、もう一応席が3個しかないんで、全部が見えるところにあるので、その広いお店とか大きいお店よりは目の行き届く場所でやれる。基本的なそのデザインは僕が塗るので、その辺は安心材料ではあるかなと。

つまり、こういうことです。中村さんは「ブリーチがうまい店」という比べられ方で、大手と競おうとしていません。

席が3つで、オーナー本人が塗る店。大手には言えない条件で、自分の店を説明しています。

制作では、中村さんが感覚で持っていたこだわりと、来てほしいお客さんの姿を聞き取って、ホームページの文章にしました。向けた相手は老若男女の全員ではなく、色にこだわる人や、色で困っている人です。

リニューアル前の直近1年、ホームページからの予約はゼロでした。リニューアル後は、2か月で14件。この数字は、何度見ても嬉しくなります。

これはAIの話ではなく、ホームページ全体の結果です。ただ、誰のための店かを言葉にしておくことが、人にもAIにも通じる準備になる、という点では同じだと思っています。

この話は、ポッドキャストの第74回「AIは大手を選ぶ。小さなお店が勝負する場所は「条件のついた質問」」でも話しています。

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