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ある相談をいただきました。
新潮社が毎年、公募している新潮新人賞の最終選考に残るために何をなすべきだろうか、と。
というのも、私自身が作家を目指した時期があったのですが、それよりも、親しい身内が新潮新人賞に2度、最終選考に残っていたからです。
本来なら、その身内に聞くのが一番。
でも私から言わせると、彼女は才能の塊です。
再現性は低いと思いました。
そこで、私なりに、得意の3C分析をして、どうすれば新人賞をとれるか、考えてみました。
今は現役のマーケターであり、戦略家としての特色が強いWEBクリエイターとして活動しているのでその相談者に「戦略的」にお伝えできることがあるかもしれないと感じたからです。
文学賞、新潮の新人賞を戦略的に狙うにはどうするか?
ホームページで成果を出すには、ユーザーに選ばれなくてはいけませんが、文学賞もまた、選考委員に選ばれなくてはならない「他者評価」です。
選ばれるには、選ばれる理由が必ずあり、それを知ることができれば、知らない人より
圧倒的に勝ちやすくなるはず。
戦略とは、限られた時間、情報、お金をどう分配すれば勝てるかを決めること。
要は、選考委員が評価するスコアポイントを稼ぐために、全力を注げば良いんです。
それでは、私ならどうするかというと…
1.新潮新人賞の過去5年間の受賞作を読み、要素を分解する
テーマ、物語の構成、構造、文体の分類、人称、登場人物の数、描写手法、総文字数、章立て…
作品を構成する要素を可能な限り細かく分解します。
エクセルにまとめると良いですね。
こんな風に。
テーマ | 祖母の死から性と生を見つめる |
---|---|
物語の構成 | 過去-現在-過去-現在と交互に展開 |
構造 | 入れ子構造 |
文体の分類 | 口語体(方言が特徴的) |
人称 | 三人称 |
登場人物の数 | 8人 |
描写手法 | 三人称の主観的手法 |
総文字数 | 8,200字 |
章立て | 6章 |
もし、数値化できるようなら、点数をつけると良いですね。
もちろん分析項目は、考えられるだけ列挙した方が良いでしょう。
こうして、5作品を分析したとき、受賞作の共通点が見つかればしめたものです。
2.各年度の選考委員のコメントを読み、誰がどんな視点で評価したのか探る
新人賞を獲得した作品の書評はもちろんですが、最終選考に残った作品についても選考委員の書評があります。
新潮であれば新潮の雑誌に載るので、それを5年分、図書館にいってもよし、新潮に連絡して過去の雑誌を取り寄せることもできるでしょう。
これを詳細に分析します。
まず、縦軸に、1で分析した作品を構成する要素、横軸に選考委員ひとりひとりの名前を記載。
そして、各選考委員が、どの要素に対してコメントし、評価しているのか、エクセルに記載していくのです。
たとえば…
要素 | 選考委員の名前 |
---|---|
テーマ | ◎ 新しいと評価 |
物語の構成 | △ 平凡 |
構造 | – |
文体の分類 | ◎ 会話が生きている、平凡な構成を、方言がこの作品のユニークさ、テーマの新しさを強調する。 |
人称 | ◎ 一見、簡単に見えるが、三人称の主観的表現は、実は難しい。 |
登場人物の数 | 〇 無駄のない登場人物でそれぞれの個性が生きている。 |
描写手法 | ◎ 比喩に関してはまだ未熟さが残るが、三人称の心理描写はきわめてうまい。老練の作家でもこうすんなりとはいくまい。正直なところ、舌を巻いた。 |
総文字数 | – |
章立て | – |
すると、その作品の中の何をもっとも評価していて、どんな要素に重点をおいているか、また、選考委員の好みがわかるはずです。
3.傾向を分析し、対策を練る
ここまでで、どんな傾向の作品が選ばれやすいか、ぼんやり見えてくるので、今度は、今年度の選考委員を調べて、どんな要素が重視されるかを予想します。
各要素ごとに、10点満点で、スコアポイントを付けると良いかもしれません。
テーマ | 8点 |
---|---|
物語の構成 | 5点 |
構造 | 5点 |
文体の分類 | 9点 |
人称 | 5点 |
登場人物の数 | 3点 |
描写手法 | 9点 |
総文字数 | 5点 |
章立て | 3点 |
スコアポイントが高いところが重要なので、作品を設計する前に整理しておきます。
そして、対策として非常に重要で、難しいのが、他の人がどんな傾向の作品を書くか?でしょう。
超難問:競合はどんな作品を書くだろうか
選考委員とはいえ、人間です。
公平な評価なんて、きっと、できない。
似たようなテーマ、似たような文体では、目立てないでしょう。
人の脳というのは、新しいものに反応します。
“新”商品、というだけで、なんとなく気になってしまうのが人間で、だからこそ、飲料メーカーもお菓子メーカーも、中身がさほど変わらなくても、「新しさ」を強調するわけです。
だから、応募する人たちがどんな、傾向の作品で来るか、読まなくてはいけません。
前年度と選考委員の顔ぶれが変わらなければ、なおさら、前年度の作品の傾向と同じではだめです。
ここでひとつ、マーケティング視点での提案です。
興味深い、時代性のあるキーワードを一つ選び、そのキーワードに対して、無差別でキーワードを掛け算していく、という手法です。
“新しさ”を生み出す、セールスライティングのノウハウ
これは、セールスライティングにおいて、キャッチコピーなどを考えるときに用いるものです。
たとえば、「ソーシャルディスタンス」を例にしてみましょう。
単体では、何の面白みもありません。
ですが…
- ソーシャルディスタンス×顔面
- ソーシャルディスタンス×ウサギと亀
- ソーシャルディスタンス×プリッツ
- ソーシャルディスタンス×靴下
- ソーシャルディスタンス×老人
- ソーシャルディスタンス×死んだ恋人
- ソーシャルディスタンス×薄毛
- ソーシャルディスタンス×ダイエット
などなど、「おっ」と思うのが出てくるまで、繰り返します。
その中から、スコアの高い要素を組み合わせて構築していけば、少しは確率があがるのではないでしょうか。
残酷な事実
ただし…、これは私にとっても残念な事実ですが、彼女がなぜ、最終選考まで残れたのか、
ということは、正直なところ、才能がほとんどすべてだと思ってます。
彼女の学生時代に書いた小説が、新潮の最終選考に残り、編集長の私見では受賞間違いないといわれていました。
が、選考委員で惜しくも2位だったそうです。
町田康氏からは「非常に耳がよい作者である」と絶賛され、編集長からは書き続ければ必ずデビューできますと太鼓判をおされました。
私はそのとき、逆立ちしても勝てない、と思ったものです。
ですが、マーケティングを学んだ今、上記のように徹底して準備して臨めば、最終選考まで行かなくとも、3次選考くらいまでは行くのではないか、と思っています。
新人賞とはいえ、その目的は、文学という芸術を持続発展させる名目もあるでしょうが、誰にも読まれなければ、存在しないのと同じ。
売れることを第一義としてないとはいえ、読者を引きずり込んで、時代なりの「感情の落としどころ」をつけなければならないでしょう。
私のような凡人は、そうして、勝てる道筋を見つけて、戦略的に負ける確率を可能な限り下げていくしか道はない。
というのも、いずれは再度チャレンジしようと思っているのですよ(笑)