mont-bell(モンベル)はなぜ登山ブランドを超えたのか?

mont-bell(モンベル)はなぜ登山ブランドを超えたのか?

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「もう重たい皮ジャケットは着たくない…」

30代後半くらいから、僕はそう感じるようになりました。

若い頃は服に特別なこだわりを持たなかった僕も、40代を過ぎた今、アウトドアブランドのmont-bell(モンベル)ばかりを選ぶようになっています。

理由は明確で、軽くて、着心地良くて、快適で、かさばらなくて、UVカットなど、価格に対しての機能のコスパが高いと感じるから。20代の頃は、気にしなかった機能性を、最近はかなり重視するようになったんですね。どれだけオシャレでも、重かったり、かさばったり、動きにくい服は、選ばなくなりました。

モンベルの製品づくりのコンセプトは、超シンプル。「Function is Beuty(機能美)」「Light and Fast(軽量で、迅速)」。これが、できるかぎりストレスなく日常を過ごしたい年齢になった僕に、ドンピシャでした。

でも、考えてみてください。モンベルはもともと”登山用”のアウトドアブランドです。それなのに、僕のような年に数回しか登らない一般ユーザーにも選ばれている。

なぜだと思いますか?

この記事では、あくまで僕の仮説ですが、愛用するモンベルが「登山専用ブランド」から「日常に溶け込むライフスタイルブランド」に変貌した秘密を勝手に推測したいと思います。

目次

mont-bell(モンベル)の始まり – 一人の登山家の想い

mont-bell(モンベル)の始まり - 一人の登山家の想い

まずは、簡単に、モンベルの誕生から追っていきましょう。

アイガー北壁を制した青年

モンベルの誕生物語は、1947年大阪府堺市で生まれた一人の青年から始まります。彼の名は、辰野勇。後の創業者です。

中学時代に岩壁登攀を開始した辰野青年は、少年時代にハインリッヒ・ハラーの『白い蜘蛛』(アイガー北壁登攀記)に感銘を受け、以来、青春期を山一筋に過ごすとともに、登山に関係したビジネスを興す夢を抱きます。

そして1969年、22歳の時に中谷三次氏とともにアイガー北壁の登攀を成功させました。これは当時の世界最年少記録でした。

凍傷が生んだ使命感

しかし、辰野さんの人生を決定づけたのは、栄光ではなく挫折でした。

モンベル創業前、大阪・梅田の登山用具店「白馬堂」の営業社員を務めていた辰野さんは、ある冬の登攀中のビバークで粗悪品の手袋をしていたことで凍傷になってしまいます。

この経験が、より高機能で安全性の高い装備の必要性を痛感させ、自ら開発することを決意させました。

母親から借りた200万円でスタート

1975年7月31日、辰野さんは28歳の誕生日を迎えたその日に、勤めていた総合商社繊維部門を退職。翌日、大阪府西区立売堀の雑居ビル一室にオフィスを構え、たった一人でモンベルを起業します。

会社の資本金は200万円と決めていましたが、当時は十分な貯金がなく、法務局に提出する残高証明書のために母親から200万円を借りて、会社設立登記を行ったそうです。そして手続き完了後、銀行から200万円を引き出し母親に返金するという、今となっては笑い話のようなエピソードもあります。

「Function is Beauty」と「Light & Fast」- 最強コンセプトの誕生

「Function is Beauty」と「Light & Fast」- 最強コンセプトの誕生

辰野さんは2人の山仲間、真崎文明氏、増尾幸子氏と共にmont-bell(モンベル)を設立し、以来「Function is Beauty(機能美)」と「Light & Fast(軽量と迅速)」をコンセプトに商品開発を行ってきました。

実体験から生まれた哲学

このコンセプトは、シンプルでわかりやすく、特徴とブランドの意思を表現していて、マーケティングコンセプトや、USPとしても秀逸だな、と思いますが、辰野さんとしては、自らの凍傷体験や、数々の厳しい登攀体験から生まれた、命に関わる切実な哲学でした。

Function is Beauty(機能美)

  • 美しさは機能から生まれる
  • 装飾ではなく、機能を追求した結果の美しさ
  • 余計なものを削ぎ落とした究極のシンプルさ

Light & Fast(軽量と迅速)

  • 山では軽量であることが命を守る
  • 迅速な行動が危険回避につながる
  • 無駄を省いた効率性の追求

自分たちが欲しいものを作る

モンベルのもう一つの重要なモットーが「自分たちの欲しいものを作る」でした。

これは決してメーカー本位の考え方ではありません。実際に山で命を預ける道具を使う当事者として、「本当に必要な機能は何か」「どこに妥協してはいけないか」を誰よりも理解していたからこその発想でした。

商品開発ではよく、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」ということがいわれます。「プロダクトアウト」は製品ありきで開発する手法。「マーケットイン」は、消費者のニーズに応えるために開発する手法ですね。モンベルの場合、一見すると「プロダクトアウト」なのですが、実は自分たちが究極の消費者として経験をベースに開発しているため、結果として「マーケットイン」になってるんですよね。

商品開発に関しては、現在でも「作ってみたい商品のアイデアがあったらどんどん出すように」と社内で呼び掛けており、モンベルの社員は大多数がアウトドア派なので、若手社員たちから毎年3,000〜4,000件のアイデアが寄せられるそうです。

転換点 – 登山専用から日常使いへ

モンベル創業から3年目、日本である程度基盤を築いた辰野さんは、欧州に単身売り込みに行き、小規模ながら輸出を開始しました。

そしてその後、世界的なアウトドアブランドであるパタゴニアと手を組んで販路を海外にまで拡大。モンベル製の素材を使ってパタゴニアがアイテムを製造し、パタゴニア製品の日本販売をモンベルが請け負うなど、良好な関係が続きました。

しかし、相思相愛の関係性はそのままに、後に両者は決別。以降、モンベルのオリジナルアイテムが存在感を増していくことになります。

直営店展開という大胆な決断

1991年、モンベル初の直営第1号店がオープンしました。店舗面積わずか32坪の小さな店でしたが、大阪駅構内という立地だけに賃料は高額。当時まだ弱小零細で、小売業としての実績もなく収益の確証もない、そのうえモールには有名アウトドアブランドやモンベル最大の取引先ブランドも並んでいるという、勝算不明の状況でした。

しかしこの決断は、「mont-bell(モンベル)」というブランドを確立させるための大きな一歩となりました。

登山ブランドが、一般ユーザーに受け入れられた理由

登山ブランドが、一般ユーザーに受け入れられた理由

そもそもモンベルは、登山専用のアウトドアブランドとしてスタートしながら、なぜ、今では、日常的に登山をしない僕のようなライトユーザーまでをも取り込み、全国に120店舗を超えるブランドに成長したのか。

そのあたりの理由を考えてみました。

登山の機能性が日常に応用できることの発見

モンベルが登山ブランドを超えた最大の理由は、「登山専用」ではなく、登山に求められる機能性 = あらゆる日常にも応用できる価値と位置づけたことにあるのではないかな、と思っています。

考えてみてください。登山で求められる機能をまとめてみると、、、

  • 軽量(長時間持ち歩ける)
  • 防水(雨に濡れても大丈夫)
  • 透湿(汗をかいても快適)
  • 動きやすさ(激しい動作に対応)
  • 耐久性(過酷な環境に耐える)
  • コンパクト収納(荷物を最小限に)

こうした機能が日常で活かされる場面に置き換えると、、、

  • 通勤時の軽さと動きやすさ
  • 突然の雨でも安心
  • 満員電車でも蒸れない
  • 子どもと公園で遊ぶ時の動きやすさ
  • 旅行時のコンパクトな荷物
  • 長期間使える耐久性

つまり、山で命を守る機能が、そのまま日常生活を快適にする機能になったのです。むしろ、過酷な状況にも耐えうる機能や、軽量さは、日常においては、より快適に、ストレスなく活用できる利点へと変化したんですね。

年齢とともに変わる価値観への対応

僕自身の体験でもそうですが、40代を過ぎると服に求める価値観が変わってきます。若いときは、見た目のデザインや、ブランド、ステータス、価格が服選びの評価軸でした。ダウンひとつとっても、軽さを意識することはなかった。学生のころは、ずしっと重たい毛皮のジャケットを好んで着ていた記憶があります。

しかし、40代に入ってからは、いかにストレスなく日常を過ごせるかが重大な関心ごととなりました。僕の場合は、健康も考慮して、長時間散歩をするようにしているため、汗をかいてもすぐに乾いて、サラッとする生地や、防臭性、紫外線カットに優れていることが嬉しい機能になります。ズボンの場合は、それらに加え、ストレッチ性があり、動きやすいこと、釣りやキャンプで多少、岩場にこすってもダメージがないタフさ。それから何度洗濯してもくたびれない、耐久性。こうした費用対効果も重視します。

もちろん、見た目やデザインも大事ですが、デザインという意味では、自分の身体に合うのが一番。モンベル製品は、そのすべてにおいて、他のブランドよりも高いパフォーマンスを感じました。

「Function is Beauty」「Light and Fast」というコンセプトは、まさにこの価値観の変化にぴったりとマッチしたのです。

「質実剛健な国産ブランド」という安心感

モンベルに対する一般的なイメージを調査すると、以下のような評価が多く見られます。

  • 「質実剛健な国産ブランド」
  • 「コスパがよく、機能性がよい。安心できる」
  • 「信頼性や機能性が高い」

一方で、「デザインや色味の面はちょっと…」という意見も一定数ありますが、これも逆に「機能重視」のブランドイメージを強化する要因となっています。

mont-bell(モンベル)の戦略的な展開

mont-bell(モンベル)の戦略的な展開

モンベルは、店舗展開の仕方にも特徴があります。ひとことでいえば、社会性があるんですね。ご存じの方も多いと思いますが、災害、高齢化、食糧危機など社会課題に積極的に取り組んでおり、僕はその企業姿勢にも共感しています。

それを戦略的、というと誤解されるかもしれませんが、戦略とはそもそも打算的な活動ではなく、目的のためにリソースをどのように配分するか、ということで、そこに企業の哲学や風土、人格が見えるものですから、ここでは戦略な展開とします。

地域密着型の展開

モンベルは直営店を拠点として自然豊かなお勧めのフィールド「mont-bellエリア」「mont-bellタウン」を全国100カ所以上に設置し、地元の山小屋やキャンプ場、アウトドア用品店など「フレンドショップ」の皆さんと協力しながら、地域ぐるみでアウトドアを振興する取り組みを進めています。

僕自身も入会している、mont-bellクラブ会員への特典という意味あいもありますが、他所からの訪問客が増えることで、エコツーリズムを通じた地元経済の活性化にもつながっています。

災害支援という社会貢献

1995年の阪神大震災では、辰野さんは当日のうちに神戸に向かい、mont-bell六甲店を拠点に在庫品の寝袋2,000点、テント約500張などを配布しました。

しかし、自分たちだけでできることには限りがあると考えた辰野さんは「アウトドア義援隊」を組織し、業界の関連企業やアウトドア愛好家に協力を呼び掛けて支援活動を展開するようになりました。

甚大な被害が発生した東日本大震災では、寝袋、防寒着、簡易トイレ、衛生用品など含め、約300トンの物資を支援し、2016年の熊本地震では、モンベル南阿蘇店前にテントを張り避難所を置き、テントや寝袋の貸し出しもしました。

2020年、新型コロナウイルスがまん延した際には、不足していた防護服を、辰野さん自らスリーピングバッグカバーの素材を使って試作し、急ピッチで生産したことも記憶に新しいですね。

幅広い商品展開

モンベルは現在、登山用品や、キャンプグッズ、日常使い出来るアパレルだけでなく、ドッグギアや、スポーツウェア、はてには農業・水産業用ウェアなど幅広い商品展開をしています。

こうした展開にも、モンベルらしい信念が見えますよね。日本の農林水産業を元気にすることを重要な使命と考えているのです。実際、モンベルの高い防水性や透湿性、軽量で動きやすいウェアなら、農業や漁業など時に厳しい気象条件下でも快適に作業できます。

僕は北海道の漁師町にある水産メーカーで7年半、勤めていたので、よく知っているのですが、防水性が高くても、重たくて、湿気がこもり、蒸れるウェアはほんとに不快です。まして、雪の舞う中の漁など、命懸けです。真冬に汗をかくと、それが外気で冷えて、めちゃくちゃ寒いのです。実際、船から落ちて亡くなる人は決して珍しくありません。

モンベルは、「Function is Beauty」「Light and Fast」という自社のコンセプトを、自然環境の保護と第一次産業の振興への貢献にも活かしています。

mont-bell(モンベル)に学ぶ、ブランド戦略

mont-bell(モンベル)に学ぶ、ブランド戦略

登山専用アウトドアブランドであったモンベルが、全国120店舗を超えるブランドに成長し、僕のようなライトユーザーを取り込みながら、ますます成長している理由は、なんといってもブランド戦略が秀逸だったといえます。

命がけの登山に求められる機能性を軸に、あらゆる日常の快適さや、自然災害や、一次産業に、「Function is Beauty(機能美)」「Light & Fast(軽量と迅速)」というコンセプトで価値展開してきたのですね。これは、森岡毅さんが、USJを「ハリウッド映画専門テーマパーク」から「世界最高のエンタメブランドを集めたセレクトショップ」にコンセプトを再定義して、V字回復させた理屈と同じだと思います。

つまり、登山専門ブランドと不必要に狭めることのない、ブランド戦略を設定したことが勝ち筋だったわけです。

ここでぜひ、あなたにも考えてみてほしいのです。あなたの提供価値を、不必要に絞り込んではいないでしょうか?

たとえば、美容師としての技術を、ただカットや、カラーをする作業的価値ではなく、「女性の美しさを引き出す技術」として、ヘアケアと、アパレルとセットで提案することはできないか。

介護のノウハウであれば、高齢者の介護に努めるだけでなく、「生活に不自由な人の困ったを解決する会社」として、ベビーシッターへと展開したり、介護から生まれたヘアケア商品などを開発したり。

あくまで、上記は適当な思考実験ですが、このようにコンセプトを再定義することで、一見、行き詰まった事業や、伸び悩んでいる売上を解消する一助となるかもしれません。

コンセプトの切り口ひとつで世界が変わる

モンベルは「登山専用」という枠にとらわれず、「登山で培った機能性を日常に」という価値提案に転換して、成長を遂げてきました。

コンセプトの切り口ひとつで、商品が届く市場も、顧客層も、ビジネスの可能性も大きく変わります。僕がこの記事で伝えたかったことは、あなたの商品やサービスも、もしかしたら少し角度を変えるだけで、今よりずっと多くの人に届くかもしれない、ということです。

モンベルのように専門性を極めた結果として、より広い価値提供できる。そんな可能性を、ぜひ探ってみてください。

ご登録いただくと、月1~2回、更新通知を送らせていただきます。

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